本がある日日

本は好きだが読書が苦手な男の読書ブログ。時々映画もあるよ。

小鳥を愛する二人の優しい物語「ことり」(小川洋子)

人の優しさをじっくりと丁寧に描かれた作品でした。

「小鳥の小父さん」と呼ばれる主人公には幼稚園の鳥小屋掃除をしていたことから園児からそう呼ばれるようになりました。

「小鳥の小父さん」には、人間の言葉が話せないけど小鳥のさえずりを理解できるお兄さんがいました。

お兄さんは当然社会では生きていくことが困難で、働くことはなく、毎週薬局でキャンディーを買いに行きます。そしてそのキャンディーの包み紙を貼り合わせてブローチを作る。近所の幼稚園の鳥小屋を眺めにいく。そんな変化のない日々が続きます。

お兄さんの言葉は「小鳥の小父さん」にだけ理解できるので一緒に生活していました。

小鳥の好きなお兄さんと二人の生活は長く続きますが、やがてお兄さんが先に亡くなってしまい、「小鳥の小父さん」一人の生活が始まります。

「小鳥の小父さん」はお兄さんの影響から小鳥に関心をもって本を読んだり、幼稚園の鳥小屋の掃除などを行う日々が始まります。

小鳥が大好きな小父さんは、生きることが少し不器用かもしれませんが、人を慕う心や正義感など人間らしい面、また小鳥を本当に愛する姿が描かれます。

話の最後にはそれまでのゆっくりと流れるような展開とは違う大きな出来事があるのですが、一体どのように終わるのかと思いハラハラしてしまいましたが、「小鳥の小父さん」のいてもたってもいられないような行動には胸を打ちます。それは「本来鳥はどうあるべきか」という小父さんの考えが表現されていました。

感想をまとめるのが難しい作品でした。
社会とは少し離れた人(たち)の切なくゆっくりと流れる時間をじっくりと言葉が綴る。滋味を感じる味わう作品だと思いました。

本の最後に作家の小野正嗣氏が解説でこの二人を「世の中からどこかしらズレたマージナルな存在」「取り繕えない人」と表現しています。
確かにそのような人たちだから感じることも多く、普通の人よりも情緒が豊かなのではないかと思うのです。