本がある日日

本は好きだが読書が苦手な男の読書ブログ。時々映画もあるよ。

お探し物は図書室まで(青山美智子)

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うーーん、良い本だった。

今年になってから小説をいろいろ読んで来たが、何なんだ?スラスラ読めるのに内容がしっかりとしていて読み応えがあり面白かった。

とあるコミュニティ施設の図書室の司書を中心に広がる5つ短編集。それぞれの話の主人公は、それぞれに抱えている悩みを何かをきっかけにして入った図書室の司書に勧められる本によって仕事や社会について考えさせられる。
(以下ネタバレ少しあります)

 予め仕事に関する内容だとは知っていたが、何か訴えたいことがあり啓発するようなものがあった嫌だなあとは薄っすら思っていたが、それは全くの杞憂だった。
押しつけがましくなく軟らかく且つ細かく、表現されている文章は素晴らしいと感じた。

テーマは仕事、職業、社会など・・・

つまらない仕事と思っていても誰かの役に立っている。そう思えればそれで良し。でも何か新しいことを見つけるために職を変わるのも良し。またいくつかの仕事を両立させて生きていくのも良し。
生き方はそれぞれの自由。
そんなふうにこの本は優しく温かく語り掛けてくれている気分になる。そして前向きに生きていけるような気分になる。

単純明快なビジネス本や自己啓発本ではなく、仕事に対する考え方を物語で優しく伝えてくれるこの本は大切にしたい一冊だ。

本の中では様々な職業が出てくるが、著者にかなりの経験があるのかまた、取材が綿密だったのかその仕事内容を本当に知っているようなところも多くあった。

例えば総合スーパーの店員などでは直営と専門店の違いや食堂風景などは僕自身が過去に関わっていたことが何度かあり細かく表現されているのがわかった。書店でのPOPの役割や、マンションの管理人の仕事など。30歳のニートの心境の描写まであり驚く。

また「ぐりとぐら」「21エモン」など実在する本が登場するのもちょっとした魅力。そして、昨年知った実在する猫の本の専門店「キャッツミャウブックス」が登場したのにも驚いた。しかもその仕事ぶりまで綺麗に話に組み込まれている。

小説にはあまり詳しく無い僕が読んでみても思うことは。5つの短編がそれぞれにリンクされていくストーリーの完成度は高く、全体を通して無駄が少なく、文章や言葉が的確なように思った。そういったことが読みやすさにも繋がっているのだろうと思う。

そしてなんと言っても表紙の「羊毛フェルト」。読みながら想像をしてしまう演出。素晴らしい。 

お探し物は図書室まで

お探し物は図書室まで