本がある日日

本は好きだが読書が苦手な男の読書ブログ。時々映画もあるよ。

心の有り様を感じる(生きがいについて・神谷美恵子)

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昔は「やりがい」ということは気にしたことがあったが、「生きがい」ということには真剣に考えたことが無かった。
先日読んだ本あたりから、今一度「生きがい」とは?と思うようになり、ふと「神谷美恵子」の名前を目にし、過去の記憶がよみがえり、この「生きがいについて」という本を思い出した。

 神谷美恵子氏は精神科医ハンセン病(らい病)や、心やめる人々に接してきた。大学教授、医学博士。1914年生まれ、1979年逝去。

「らい菌」が感染することで末梢神経が麻痺したり、知覚麻痺、失明などの様々な症状が起きるという想像を絶する非常に重い病のハンセン病患者たちがベースに書かれている。

現在はハンセン病が治療できる病だが、1940~1960年代のころは治癒する見込みがなく、また感染するという見解から隔離されていた。
生きている意味を感じない。絶望を感じる。そんな虚無を感じる彼らは「生きがい」をどのように見出していけば良いのかという観点でも書かれている。

わざわざ研究などしなくてもはじめからいえることは、人間がいきいきと生きていくために生きがいほど必要なものはないという事実である。
それゆえに、人間から生きがいをうばうことは残酷なことはなく、人間に生きがいをあたえるほど大きな愛はない。
しかし、ひとの心の世界はそれぞれちがうものであるから、たったひとりのひとにさえ生きがいをあたえるということはなかなかできるものではない。

そもそも生きるうえでなぜ生きがいが重要なのか、どのようなときに生きがいを感じるのか、どのように生きがいを認識するのか。

生きがいをもとめる心、どのようなものが生きがいに対象になるのか。
また、生きがいを喪失した人の心はどのように新しい生きがいを見出すのか・・・

生きていく中で、充実しているときや張り合いのある時というのがある。反対につまらないとか退屈だとかを感じる時もある。
人間の心というものはなにか満たされたものが無いと不足を感じる動物だ。
本の中でも書かれているが、戦中戦後など非常時には神経症の数が減るが、高度成長が進み、ものを考える時間が増えると倦怠や虚無感に悩まされる人が増えるという。この本がかかれた1960年代でこれだから、現代は更に悩み多き時代とも言えるだろう。

本の終盤には心の変革について書かれている。
自然との融合や宗教における変革だ。ただ宗教とひとことでいうのは難しいが、「生きていくことが無意味である」というような絶望した人が変革体験(神秘体験)により自分は生かされてるという使命を感じることがあるという。

変革体験はただ歓喜と肯定意識への陶酔を意味しているのではなく、多かれ少なかれ使命感を持っている。つまり生かされていることへの責任感である。
小さな自己、みにくい自己にすぎなくとも、その自己の生が何か大きなものに。天に、紙に、宇宙に、人生に必要とされているのだ、それに対して忠実に生きぬく責任があるのだという責任感である。

 「永遠の名著」と帯に書かれていたが全く違いない。
自分が感じていることや思考など、少し人と違うのではないかと思うことが時々あるが、この本によってあらゆる「心の姿(有り様)」というものを広げて見せられた気がした。そうすると、自分もマイノリティかもしれないが異常ではなく、全体の一部でなのではないかと思った。

少々難しい内容だったが、行き詰まったときに再読したい。
このような本が1966年に刊行されていたことに驚くが、現代でも「生きる意味」や「生きる目的」などを考える場合には重要な本であることは間違いないと思う。

 余談ではあるが、昔本屋に勤めていたころ、人文書コーナーにはみずず書房という出版社の本がいくつか並んでいた。その頃は全く興味がなくそもそも難しそうで今まで読むことは無かったが、この本が初めての「みすず書房」の本となった。