小さな声、光る棚(辻山良雄)
荻窪にある新刊書店「本屋Title」の店主が書いたエッセイ。
「本屋Title」は2016年に開店。
以前にも読んだ辻山氏の本は開店までと開店直後までの内容だったが、この本はそれ以降のお話。
本屋ならではの出来事、また新刊書店ならではの現象などなにげない日常からコロナ禍の日常までが書かれている。
著者の文章にはどこか味があって読みやすい。
本屋と言ってもいろいろなスタイルがあるが、辻山氏のお店「本屋Title」は新刊書店だ。
新刊書店ということは、注文品や配本などで本が入ってくるのが日常で、棚に入りきらないものは抜き取り(その後返品や在庫などになる)、新しい本が棚に入る。
ようするに本が入れ替わり棚は循環していく。
まるで人間のからだの細胞のように。
著者は「一日たりとも同じ日はないのである。だから本屋はいつもあたらしい」という。
本屋以外であっても、いわゆる物販という商品を販売する店舗では、どの業種でも同じような現象は起きている。ただその頻度や種類は多様だが。
僕が現役の書店員だったときにも思っていたが、これほど多くの種類の商品が入れ替わる業種は他にないと思っていた。
コロナ禍においても店は動いていた。
休業している際にネット注文のみの対応をされていた際でも棚の管理は必要であり、そんな中著者は棚に本を並べることにこう感じていた。
ウェブに届いていた注文を作り、いくつかのメールに返事をして、帰る前にその日来ていた本を棚に並べた。無心に手を動かすうちに、自分の身体のなかに何かが収まってくる感覚がある。
毎日やっていることなのだけどその日はそれがなつかしく、すべて終わったころには充実感に満たされた。ここがわたしの店で仕事場なんだ。
「仕事に愛着を持つ」ということはどんな仕事でもあるだろう。
本屋は本を作っているわけではないが、日々「書棚」を作っている。
背表紙にはこう書かれている。
一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。それは本に託したわれわれ自身の小さな声だ
物作りならぬ書棚づくりをされている。
どういう思いで棚作りができているのかが見えてくる。
そういうところが印象深く残ったエッセイ集だった。
そのほかお客さんのこと、家族のこと、子供のころのことなども書かれている。
最後に書いておきたいことは読みながら思ったのだが、この本のソフトカバーの柔かさと、そのカバーの端と(本文の)小口部分の「段差の距離」が絶妙で心地よかった。
なんとも文章では表現しづらいが、特筆しておきたいところなので書いておく。
・以前に書いた著者の前作の記事